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評価:
北森 鴻
新潮社
¥ 500
(2008-01-29)
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民俗学者・蓮丈那智シリーズ第三弾。3作目にもなると"マレビト"という専門用語すらなじみ深いものになるのだと気づいた今作。4編からなる短編集です。
助手・内藤の写真が学生の間で御守り代わりにされている、そんな他愛のないエピソードから始まる第一話
「憑代忌」。フィールドワーク先で出くわす殺人事件と内藤の御守り事件に共通点が。。どちらかといえば本編の事件より、内藤三國のもずのはやにえ事件の方が面白い。
第二話
「湖底祀」は、湖底に神社の跡がある!説を唱えた在野の学者と蓮丈那智のバトルです。着目すべきは、“鳥居”について論じられていること。鳥居の起源が不明とされていますが、ここでその起源・役割について触れてきたのがちょっとびっくりでした。まあ、鳥居については目から鱗のような説ではありませんでしたが、湖の中に沈んでいるものについての蓮丈那智の推論は面白い。第三話
「棄神祭」では、教務部の彼と蓮丈那智が学生時代に遭遇した事件が焼き直されるような事件に遭遇するお話。舞台は旧家に伝わる奇妙な祭祀は、映像作品として見てみたい。タイトルの「棄神祭」というテーマがおもしろいです。
そして表題作
「写楽・考」、別シリーズで常々思っていましたが、北森鴻という作家はよほどマンネリを嫌うのか、それとも危機的状況からの脱却・反撃が好きなのか。最終話はボリュームもピンチ度もかつてなくらいの作品でした。業界誌に載った業界を揺るがすような論文、文体は蓮丈那智に似ているが蓮丈那智ではない。そんな時、論文の作者と同名の人物が行方不明となり、さらにその人物ゆかりの骨董商が殺害され、蓮丈那智に容疑がかかる。この作品で初めて教務部の彼の名前が明かされます。失踪した蓮丈那智を捜し、容疑を晴らすために奔走するのは内藤と同じく助手の佐江由美子、そして教務部の彼です。さらに冬狐堂も特別参加。大々的なミステリ活劇で、かつオチも大変魅力的なものでした。中篇くらいのボリュームでしたが、単品でもいけたような。エンタメ要素抜群でおもしろい。
レギュラー陣が揃ってきたところで、蓮丈那智シリーズしばらく書かれないんじゃないかという余計な心配だったり、「写楽・考」のピンチ度を考えると、今後の作品はもっともっとピンチになるんじゃないかという不安がよぎりますが、人死にがないミステリで十分なので、長く続いてほしいシリーズです。