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評価:
伊坂 幸太郎
東京創元社
¥ 680
(2006-12-21)
Amazonおすすめ度:
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伊坂幸太郎の作品を読むとき、前情報は一切ナシで、それでも絶対ハズレないだろうと思って読みますが、やっぱりハズレないんです。タイトルからずっとずっと気になっていた「アヒルと鴨のコインロッカー」、人やタイトル、セリフ、テンポ全てとにかくセンスがいい。若い作家が書いた作品として舞城王太郎と比較してみると、舞城は新鋭作家のハイエンドで苦手な人にはとことんダメという際物の印象があるけれど、伊坂幸太郎は根底に流れる綺麗さが絶対にあって80点オーバーを常に取ってくるスラッガーのよう。今までの伊坂作品の中でも一番の出来ではないでしょうか。吉川英治文学新人賞受賞作ですが、これは受賞して当然の作品。
大学の入学準備で引っ越してきてすぐ、僕は隣人の河崎から書店強盗に誘われる。狙うのは広辞苑1冊だけ。結局僕は2日後に書店の裏口でボブ・ディランを歌いながらドアを蹴っている。そんな僕と河崎、ブータン人のドルジとペットショップ店員の琴美のちょっと切なく温かい物語。
2年前と現在を順々に辿っていく二重構造。しかし、その中にも連続ペット殺しの顛末や、鍵のかかった部屋から教科書だけが盗まれた謎、野良猫の尻尾に結ばれたくじの謎。それらのミステリーもポイントポイントで効果を発揮。「陽気なギャング〜」より伏線が上手く回収されているような。どちらが先に世に出たのかはわからないですが。そして今回も冒頭から「強盗」あり。伊坂作品ってひそかに強盗率(?)高くないですか?
メインとなる4人(実際は僕と3人というスタイル)は、決して恵まれている環境ではなくそれぞれ不幸せを背負っている、しかしそれを不幸せとして捉えず、淡々と彼ら彼女らの今を生きているところに、静かに感動します。思いっきりドラマチックに描くこともできるだろうに淡々と描くところに良さがあるんですね。読了した人にしかわからない感想ですが。
一番気になるタイトルの「アヒルと鴨」。文中では「アヒルと鴨の違いって?」みたいな感じで登場しましたが、森博嗣S&Mシリーズの「オットセイとアシカの違い」を思い出しました。あれは面白かった。コインロッカーがどこに登場するかは未読の方は読んでからのお楽しみということで。そのコインロッカーが登場するシーンはこの作品の中でも一番「うわー」と思ったシーンです。嫌な意味ではなく物語のクライマックス。読了直後、もう一度そのページを開いて見てしまいました。キャッチコピーの「神様を閉じ込めに行かないか?」まさにそのシーン。素敵です。
この作品、映画化されるようですが、映像化したくなるような名シーン、光景が沢山あります。しかし実際どうやって映像化されるのか気になるような見たくないような。それぞれのキャラクターがしっかり確立しているので、それがもし自分のイメージと違って登場したらがっかりするかもしれない。