タイムリーなことにwiiで発売されたばかりの戦国無双3で、新キャラとして甲斐姫が登場。忍城攻めがどういうものなのかという予備知識も万全。この本を購入したのは確か半年くらい前なので、知識なしに読むより寝かせておいて良かったかも。ま、予備知識なくとも小勢で大軍に立ち向かうような戦のお話は面白いですね。
でくのぼうを略し“のぼう様”と呼ばれる成田長親、従兄弟である城主は小田原へ行き、父である城代を亡くし、石田光成に囲まれてまさに絶体絶命というこの時に城代になってしまう。彼が持つ気配は将器なのか、渾名通りの愚なのか。残された将兵500と民と女子供合わせて3000弱で防戦するその相手・石田の軍勢23,000。そんな戦の話が面白くないわけがない。
登場する人物はとても少なく、成田勢としては、武功一等を示す“皆朱の槍”を持つ事を許される武将・正木丹波、我こそが皆朱の槍に相応しいと自負する柴崎和泉、自らを天才と称して疑わない若い武将・酒巻靭負、そして能があるのかないのかわからないのぼう様。戦国時代に有名を轟かすような人々ではないが、それぞれ見せ場があり、良いキャラだなと好感を持って見ていたキャラクターがいざ開戦となり、想像以上の活躍をすると本当に嬉しい。実は凄い人だったんだという驚きだったり喜びだったり。読者のテンションが上がるポイントをすべて突かれたような、それでいて感じの悪くない物語になっていました。酒巻靭負も、こういうキャラクターは派手に失敗して散ってゆくかライバルに助けられるかするようなイメージなのに、身の程を知っている、自分の弱さを理解した上での作戦を取ってくるあたりも非常に高感度アップ。こんなに後味の悪くない、小気味良い戦国時代の小説を読んだのは初めてかな。石田サイドとしては、大谷吉継がうまく書かれていたように思います。三成もヒールに徹するような書かれ方ではないので、嫌な感じがしなくてグッド。
忍城を調べると、甲斐姫のエピソードがとても多く、そのエピソードを重点的に描くともしかしたらもっととんでもストーリーになっていたんでしょうが、甲斐姫が全面に出ることなく、しかしポイントポイントで良い味付けになっていて、このあたりのバランスも良いです。とにかく、面白く読めたので★5つ。「のぼうの城」は文庫まで待つ必要がない、むしろ単行本で買うべき作品でした。
続編なのか二作目なのかわからないのですが、タイトル的には小田原周辺な気がしないでもない「小太郎の左腕」も絶対に読みたい。全く前情報ナシですが、小太郎って風魔小太郎?それとも別人?