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評価:
高村 薫
新潮社
¥ 1,890
(2009-07)
あれの1割も売れないだろうけど
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評価:
高村 薫
新潮社
¥ 1,890
(2009-07)
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久々の新刊読書。単行本で即購入の作家は高村薫のみです。利便性と価格の事情もあって私は文庫もしくはノベルス読みなので、京極夏彦ですら、単行本買うの迷いますし。正直、ついこの間「晴子情歌」「新リア王」を読み終えたばかりなので、合田雄一郎が登場すると予告されていた「太陽を曳く馬」をこれほど早く手に取る事ができるとは思っていもいませんでした。いつも内容を確認してはすぐに消去している新潮社の新刊メールが初めて役に立ったよ!
都心にある禅寺の若い僧がトラックに衝突し死亡した。遺族は管理責任を寺に問い告訴する。その調査を命じられた合田雄一郎は、その訴状に過去の刑事事件で出会った福澤彰之の名を見る。「晴子情歌」「新リア王」に続く三部作の最後の作品、帯のコピーより「福澤一族百年の物語、終幕へ」
結構ネタバレですので。
当然のように上下巻に分かれておりまして、計3600円也。文庫が何冊買えるのだろう。しかし、高村新刊は何よりも最重要事項ですので、すべての読書を途中で放って最優先で読みました。上巻はスピーディー、下巻はうーんという感じ。評価の★4つは高村薫が読めたから、それだけなので参考にはなりません。
上巻はほぼ、福澤秋道の起こした殺人事件の経過、後半、現在が書かれる。「新リア王」では、ただの非行少年だと思っていた彼がこんなだったとは。福澤彰之の息子が非行少年とは、、という違和感があったので、むしろ福澤秋道という青年がどういった人物か今作で明らかとなり納得した感じ。息子へ宛てた彰之の手紙は「晴子情歌」の彰之そのままのように私には見え、作品を読み終えた今でも老いた印象がまるでなく、目に浮かぶイメージは、墨染めの僧衣を纏って道を静かに歩く、あるいは漁船に乗って編み物をする彼そのままでした。他所様のレビューを見ると、彰之の老いを感じた方が多かったように思いますが、私はあまりそういった印象は持たなかった。希望だったり先入観だったりがあるのかなあ。福澤彰之はあのままであって欲しい、みたいな。
一方、下巻は若い僧がトラックと衝突して亡くなった事件、その背景に何があったのかを突き詰めてゆく。途中、オウム論議は非常に読みにくい。私は哲学として宗教、特に仏教は大好きなんですが、論理が破綻しているオウム真理教に関しては、今さら論議する必要もないし、論議を見聞きするのも無駄だと感じているので、作中で僧たちのオウム論議を展開する長い長いくだりは苦痛でした。確かに僧侶のように宗教世界に身を置く者にとっては、他宗教について考え論ずることもままあるでしょう。論議の先にある青年僧が寺においてどういった存在だったか知る上で必要なくだりなんでしょうが、難解だから苦痛ではなく、関心がないから苦痛だったような。しかも長いんですね。青年僧の周囲が彼に対してどう思っていたか、事件当時の様子について話が変わってゆくと読めるんですが、オウムのくだりが一番読書が進まないポイントでした。
また、久しぶりに登場した合田雄一郎は、若い部下の能力を認めながらも今時の若い兄ちゃんに辟易とするようなオジサンっぽさを見せながらも、かつての彼とそれほど変わりはないように見えました。相変わらず似たような事で悩んでいますし。若い部下・吉岡の言動は時に的を得ていて面白い。
ひとつ発見があって、晴子、新リア王を読んでいた時は、彰之は合田雄一郎に似た印象を持って読んでいたんですが、今作で全然違うという事がわかりました。似ていたと思ったのはその他大勢の人とは違う明らかに異質な空気け。福澤彰之の、人を寄せ付けないくらい澄んだ空気を纏っているのに胸の内は熱かったり、そういう部分が好きですが、今作でたびたび登場する彰之の手紙を読むと、自身に起きた動揺すらも手紙に書くような真っ直ぐな部分や単なる世間話すらも魅力的に見える。この作品で合田雄一郎は主人公かもしれないが、これは福澤彰之の物語だと感じるような終わりでした。どの時代の福澤彰之も惹きつけられるような魅力があり、彼が一番似ているのは、同じような空気を持つ母の晴子ですね。そういえば他所様のブログでも指摘されていましたが、合田雄一郎の体重65kg、これはナイ。どれだけひょろいんだ。