閉鎖的な村の環境、対立する旧家、怪異と不可思議な事件、戦後すぐとくれば誰でも横溝を連想するはず。ただ、横溝はあくまでも推理小説であり、どんなに祟りや幽霊、物の怪の類としか思えない出来事も、最後には論理的に説明されるオチが待っていると言う保証がある。それに対して三津田信三。どれだけ"ホラーとミステリの融合"と言われようと、ホラーがある時点で横溝とは別モノ、冒頭のエピソードからもう怖くてしょうがありません。
村の中に得体の知れない何かがいる、という恐怖。そして次々に奇怪な死が連続する。こんなに恐ろしい状態が続く谺呀治家の住人はパニックですね。そんな謎もあんな謎も最後には探偵の手によって解き明かされるんですが、全編通して仕掛けられていたあるトリック。それは絶対に私には気付けない類のものでした。この手のトリックには残らず負けている気が。このパターンのトリックだとわかれば、再読ではまた違った楽しみ方ができますね。
ミステリとしてはよくあるパターンなのかもしれませんが、幾つか披露される怪談や、子供の頃に体験した恐怖経験の逸話が面白い。特に巫女の少女が儀式で祓い所へ行くシーン、少年二人が山へ行くシーンの恐怖はまるで味わったかのよう。また、ただの村の描写なんですが、第四章の冒頭、誰そ彼れ時の一瞬だけ村は本来の顔を見せる、というくだりがとても印象的。よくもこれだけ恐ろしい設定を細かく作り上げてきたと思うくらい周到な舞台設定のもとに作られた小説だけあって読み応えは抜群。オチでしっかりミステリとして一応の解答を用意されていたため、読了後には色々な意味で安堵しましたが、これが解決しないパターンだったらもう怖さだけが残って、本を叩きつけていたかも。少なくともこの作家を読み続けられないだろう。一安心したところで、二作目、三作目も順調に新書化されていたので、文庫待ちです。