ノベルス版で全4巻、数々の昔話、逸話が登場しましたが、第四巻で語られる不空の物語は本当に面白い。特に、不空が子供時代に出会った男の物語は壮絶だった。なるほど、これだけ強い縁があるなら、この一連の事件の動機として考えられる。怒りなど負の感情は時間と共に薄れるものと個人的には思っていますが、この作品でも、最初は憎しみのため、それがいつしか違う感情に替わって、単なる憎しみが動機という単純なものではなくなり、簡単には事件の真相に辿り着けなくなっている。人の感情って変わるものなので、人の心の移り変わりが描かれているのが嬉しい。ただ植瓜の術は夢枕獏の作品に登場し過ぎでは?これで4回目くらいな気がするのですが。。
非常に印象に残ったのが、上記の逸話ともうひとつ。皇帝に呼ばれて、壁に書を書くというもの。これ実際にあったとされているのかどうかもわからないですが、「樹」という字の書き方、書いている描写があまりにも素晴らしく、これだけでも読んだ価値があったというくらい印象的なシーンでした。書家として有名な空海ですが、wikiによると「空海の文辞は大胆で極めて詩的な麗句であり、(中略)文字の大小、線の肥痩、墨つぎ、運筆の緩急も変幻自在の筆跡」とある。世間の慣わしだったり偏見、先入観に捕らわれない人柄が、今なお多くの人を惹きつけてやまないのだ。本当に魅力的で憧れる人物であり、そう描かれていた作品でした。文句なしに満点。まあ、高い評価はファンだからなんですが。