|
評価:
三浦 しをん
文藝春秋
(2009-01-09)
不思議な二人がコンビの連作短編集
|
近所の書店で衝動買いの一品。表紙が愛用しているタバコだったことと、直木賞受賞作という帯につられて。表紙がコレじゃなかったらきっと手にとっていなかっただろう作品ですし、この作家と出会うこともなかっただろう。
東京の外れにあるまほろ市、その駅前で便利屋を営む多田は、行きがかり上、高校の同級生である行天を拾う事になる。居候の行天とともに便利屋に持ち込まれるトラブルを解決する暖かなミステリ。
―そんなことは自分でやれ、と言いたくなるような依頼のおかげで、便利屋という職業は成り立つ
町の便利屋として地道に働く多田に対し、自由奔放な行天。行くところも住む場所も帰る家もないのに焦らず落ち着いてる行天は、犬にも懐かれ、少女にも好かれ、娼婦にも好まれる。どこまでも自然体な行天の言動に戸惑い苛立ちながらも、肝心なところでガツンと本質を突く行天に多田も読者も魅せられてゆく、そんなお話でした。
物語も、便利屋の日常風景とは別に、行天絡みの非日常とがうまく噛み合っていて飽きずに読める。彼らの過去や、依頼の顛末を気にしつつ、便利屋に持ち込まれる様々な依頼も楽しめる、教訓やテーマ等気にせずに純粋に楽しめる、それこそがエンタメであって、そこが直木賞として評価された点なのだろうと感じます。
私見ですが、直木賞はあくまでエンターテイメントを追求する賞であって欲しいと思っていますが、小説の完成度を問うなら、直前に読んだ恩田陸「象と耳鳴り」の方が私には高いと感じられましたし、エンタメとしてはこの直後に読んだ海堂尊「ジェネラル・ルージュの凱旋」の方がはるかに面白かった。ただ、直木賞にふさわしい作品として、エンタメ度とさらにもうひとつ心に残る何かがあるので、この作品は小振りながらも受賞に値する作品だったと読了後にうっすら思いました。他の二作がふさわしくないというわけでは勿論ないですが。特に「ジェネラル・ルージュの凱旋」は早くも2009年度もベストにランクインしそうなくらいアタリでしたし。
三浦しをんは初めて読んだのですが、なかなかどうして悪くない。特に日常風景の描き方がとても面白く、今作で言えば、常連客である山城町の岡さんのような魅力的な脇キャラも楽しい。少年少女が主役の作品だったら手が出にくいけれど、こういう地に足を着いた頑張る大人を描く作品であれば今後も読みたい。