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評価:
法月 綸太郎
講談社
(1995-11)
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とにかく面白かった法月綸太郎の短編集。新本格の作家さんだとは知っていましたが、内容は有栖川以上では?キャラクターは有栖川有栖の方が好きですけど。
「死刑囚パズル」「黒衣の家」「カニバリズム小論」「切り裂き魔」「緑の扉は危険」「土曜日の本」「過ぎにし薔薇は・・・」の実に7作も収められている短編集。豪華だ。あとがきで短編集のタイトルの由来について少し触れていますけど、純粋に嬉しいですね。その由来だけで法月綸太郎の好感度大幅にアップ。
まず第一話「死刑囚パズル」は題材が重い。けれど、一番関心を持って読めました。今まさに死刑が執行されるという瞬間に毒殺された死刑囚。そのなぜ、は面白いものでしたが、それ以上に死刑囚とその周囲の人々の関係、気持ちが上手く書かれていて、長めの分量もあっという間でした。実際の死刑執行はどんなものなのか知らないんですが、それでも違和感や不自然さを感じなかったら、それがリアルなんだなあとぼんやり思いながら読みました。
「切り裂き魔」「緑の扉は危険」「土曜日の本」「過ぎにし薔薇は・・・」の4作は図書館シリーズ(なのか?)。綸太郎が想いを寄せている司書からもたらされる謎の数々。例えば、本の1ページ目が切り取られる事件、本の天井部分を覗いてランダムに本を借りてゆく女性の謎など、不思議なものばかり。また、「土曜日の本」はかの有名な“鮎川哲也と五十円玉二十枚の謎”の解答編として書かれた作品らしい。そのテーマは有名な物ですが、解答編を読んだのは初めて。色々な作家についても書かれているので、楽しいですが、競作というだけあって他の作家の作品も読みたいですね。
「黒衣の家」は、身内の不幸の話ですが、「雪密室」と今作を読んだ限りではあまり幸せな親戚関係ではないように見えます。その分、図書館にまつわるほのぼのとしたミステリが素敵だ。重さと柔らかさを適度に使い分けたこのシリーズ、そろそろハマってきたかも。