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評価:
稲見 一良
早川書房
¥ 672
(1994-02)
どうすれば・・・
静かな時間を感じる
まさにこれこそハードボイルド
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久々に出会った、文句ナシに満点だよ!!と思うような傑作。思えばハヤカワ文庫は国産小説はそれほど手に取った経験がない気が・・。
石に鳥の絵を描く男。河原で偶然彼に出会った青年は、鳥と男にまつわる6つの夢を見る。読後に裏表紙の紹介文を見てそんな設定を知りました。夢だったのか。。。そんな感じで紹介される鳥と男にまつわる短編集。どれも甲乙つけがたく魅力的なのだ。
一瞬の風景を撮らなければなない。自分の仕事、将来がかかったその瞬間に、その鳥は舞い降りてきた、第一話
「望遠」。猟のために森へ入った青年は数万羽のリョコウバトの群れを目撃する
「パッセンジャー」。第一話、第二話はどちらも鳥に魅せられる作品。
退職金でキャンピングカーを買い、趣味で猟を始めた男は、パチンコで鳥を仕留める少年に出会う。銃やボーガン等を使わず工夫をこらした猟のスタイルに惚れ、男は少年に弟子入りする。男と少年の冒険を描いた第三話
「密猟志願」。これには本当に魅せられました。主人公と一緒になって謎の少年に弟子入りしているような、そんな気分を味わいながら読める傑作。素敵です。
刑務所から脱獄した3人の囚人を追って山狩りする第四話
「ホイッパーウィル」。主人公は元兵士、隠棲して細々と狩猟生活を送る。ただ、狩の腕を買われ、追跡者として参加する。まるで浦沢直樹の「マスターキートン」のような、作品でした。短編集の中で一番ハードボイルドでありアクション要素もあり、エンターテイメントとしても楽しめるのに、地に足の着いた人らしさもあって素敵な作品。好きです。
第五話は、漁船が沈没し大海原に投げ出された男の
「波の枕」。体力も尽き、もうダメだと感じた時、流木に頭を乗せて悠々と泳ぐ海亀に出会う。ネットで調べてみると“亀の枕木”は漁師の伝説で、その流木を拾うと漁運がつくらしいのです。実際に亀にそんな習性があるのかはわからないけれど、物語としてはこの短編集の中で一番好き。最終話
「デコイとブンタ」、用済みとなり捨てられたデコイを拾った少年。デコイの視点で少年との冒険を描いた小品。少年に拾われ、綺麗に色を塗られ、生まれ変わったデコイの喜びと少年の切ない生き方が何より魅力的。
どれも素敵な話ばかりですが特に「密猟志願」以降の作品は、各所の書評で絶賛されていていたのがよくわかりました。確かに「猟犬探偵」シリーズのようなハードボイルドさもありますが、それよりも人と動物、大人と子供の交流や冒険が胸をうちます。重くもなく軽すぎもせず静かに落ち着いて読める作品集でした。