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評価:
吉野 朔実
小学館
(2002-10)
正直あまり目新しくないというか…
吉野ワールド入門書としてぜひ
本当の自分探しってこういうこと
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例えば本当に好きな作家の作品を読んだら、何を読んでもどんな文章でも感動してしまう事が稀にあるように、吉野朔実作品はもう本当にたまりません。大好きだー。この作家さんに出会えた事が奇跡のよう。初めて読んだ「恋愛的瞬間」であれほど感動したのになぜこれまで読み続けて来なかったのか不思議。
このブログを始めた当初は、小説の感想のみを記事にしようと決めていて、コミックは載せる気全然なかったのですが、今ではゲームやら何やらテキトーなブログになってしまいました。それでも、仮に初志貫徹し小説のレビューオンリーサイトだったとしても吉野朔実作品は記事にしたい。コミックだとか小説だとかメディアを超越しています。それくらい好きでたまらない作品群。小学館文庫で7作品収録。
まずは表題作「記憶の技法」これは中編です。ひょんな事から自分は両親の本当の子供ではないのではないかと考えるようになった少女。親にも聞けず自分は本当はどこの誰なのか探すための旅に出るお話。ジャンルで言えばミステリ。両親と血のつながりがないかもしれないなんて相当な衝撃である筈なのに両親に当たり散らす事もなく、しっかり前を見据える少女が格好いい。吉野作品に登場する主人公の女の子は大抵、地に足をつけて、言葉少なく、先をしっかり見据える。本当に格好いいのだ。
第二話「霜柱の森」は「記憶の技法」に登場した怜くんの子供の頃のお話。朝、一番に誰も踏みつけていない霜柱を踏んで登校するのが好きな怜くんの、トラウマになりそうな少年時代の出来事。夢に毎晩あらわれるオレンジの女性の話「アンナ・O」、私のためにみんな死んでしまえばいいのに・・と日々想う女の子の「女子高生殺人日記」、自殺した彼女を前にした男性に天使が現れる「粉ミルク」、愛してやまない彼本当は誰なのか「透明人間の失踪」、振られて自暴自棄になる青年に対して家族が放った言葉たち「恋愛家族」極上の小品集です。
一環してサスペンス性がある話が多いのにそんな感じを見せない淡白なストーリー展開が本当に効果的です。役に立たないのは私だ、と思った後のラストシーンが様々な言葉を投げかけてくる「女子高生殺人日記」がかなりお気に入り。後半の短編は本当に無駄な言葉がほとんどない。シーンひとつで感じさせる絵師の腕っ節が見事です。
吉野朔実の作品を読むといつも思うのが、この作品群が小説だったらということ。メディアミックスは基本的に好きではないけれど、ノベライズを求めたくなるような作家です。印象として近いのは、森博嗣の短編集をストイックにした感じ、または江國香織の作品をよりクールでドライにした感じだろうか。うまく説明できないけれど、ミステリや短編好きな方にはぜひ読んでみていただきたい作品でした。