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評価:
井上 夢人
集英社
¥ 1,575
(1997-08)
こういう水戸黄門みたいなの好き
お約束
とにかく、笑える1冊
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↑amazonレビューの水戸黄門みたいというのがちょっとわからないですが、なかなかどうして素敵な一冊でした。文庫版がカドカワの夏の100冊に入っていてびっくりだったんですが、自宅にあったハードカバーで読書。デザインは文庫の方が好きです。バカミスにカテゴリされることもあるらしいけれど、こういうスタイルの作品大好きですね。
牛丼屋でバイトをしている僕と、微妙な超能力を持っているヨーノスケ、類稀な推理力を披露するパチプロのイッカク。ヨーノスケを頼って様々な事件が持ち込まれる。
ヨーノスケの持っている超能力が事件を颯爽と解決に導くというわけではなく、彼の能力は作中で低能力と評されているように鮮やかなものではない。コインを動かすのに時間がかかるし本を透視するくらいなら普通に読んだ方が早い。人の役には立たないけれども趣味である超能力。その立ち位置や超能力に対する各々の捉え方が非常に面白い。
さらに、毎回読んだ本を床に叩きつけてミステリに対して批判するイッカク。彼の推理は筋道が立っていて説得力もある。時々強引では?と思うところもあるのだけれど、依頼人が持ち込んでくる謎にヨーノスケが超能力で、イッカクが論理で挑戦するわけです。物語はワンパターンですが、繰り返しの楽しさもあり飽きずに読める。
作品のコンセプトは「大山鳴動してねずみ一匹」みたいなゆるーいミステリなんですが、かねてから、蓋を開けてみればこうだった、みたいなネタが大好きなので、この本はツボでした。好きだ。さらに、ヨーノスケというキャラクターがあまりにも素敵です。謎の原因が幽霊かもしれないとなると「やだよ、怖いし」と即答。優しく、臆病で、自分の力の何たるかを心得ている。キャラクターそれぞれの個性をここまで書きだしたのは岡嶋二人では珍しいなあと思って読んだのですが、何のことはない井上夢人じゃないか。こういう短編連作ならいくらでも読みたい。各作品の中ではからくり箱とアロエの話が素敵でした。