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評価:
舞城 王太郎
新潮社
¥ 580
(2005-04)
三十のおっさんがかいてるとこがうける
ぶっとんでる?
舞城王太郎の代表作
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賞味期限があると言われている本書。果たして今この時読むのは賞味期限切れなのか。確かに芸能人の名前だったり映画の話だったり話題になった事件が、作品の中で触れられているからか。それともキャラクターの年齢層が低い分、彼女たちにとっての常識を知らない世代にはキビシイという意味だろうか。
ようやく読む気になって手に取ったはいいけれど、好きでもない男とホテルに行って自己嫌悪に陥る主人公の視点からなる冒頭。特に女子高生の倫理観や性生活、恋愛にあまり関心がないので、いつまでこのテの話が続くのかと正直苦痛でした。初めて舞城で嫌だと思ったかも。ピコーンは嫌じゃなかったのになあ。しかし、思いもしなかった事件が起きて、そんな事件に動揺しながらも主人公・アイコは恋愛にばかり心動かされる。読者としては恋愛よりも事件の方が気になるんですが、気になるところで現実とはかけはなれた世界の話が始まる。
まずは三途の川らしき情景、どういうシチュエーションで占い師がいるのかわからない。そしてグッチ裕三やら誰やら芸能人が数多く登場する意味もわからない。ただ、三途の川についての作者の印象が案外皆がイメージするような三途の川で、読者も作者も日本人なのだと感じた。そしてもう一方のパラレルワールド。よくわからない世界でよくわからない魔の森の冒険譚。これは面白い。気持ち悪いけれども、少しでも音をたてる、その音が声になり、音が声が迫ってくる様子はなかなか出来のいいホラー作品でした。ここだけがすごく良かった。舞城王太郎の書くホラーはもしかしたら面白いかもしれない。
で、挿話も終わり現実世界では、狂気のようなアルマゲドンとやらが終わってしまっていて、後日談が続く感じ。しかも結局“ぐるぐる魔人”と呼ばれる殺人犯はどうなったのか、アイコはどうなったのか。ちょっといい話風に終わっても、結局寺に居る二人は実在している二人なのか。一方は幽霊なのか。疑問ばかりが残ってよくわからない感じでした。急いで読んだので大切な箇所を読み飛ばしたのかも。。しかしわからない。結局佐野の誘拐事件も全く解決されていないし。途中の挿話以外はちょっと残念な感じです。本当に舞城王太郎の作品で初めて面白くなかったかも。
最後に「川を泳いで渡る蛇」という短編が収録されていました。これはかなり好きです。こんな兄弟喧嘩、親子喧嘩、恋人(奥さん?)と喧嘩。そんな日常を書いただけの作品なんですが、これがすごく好きだ。いつもどおりの彼女にいつもどおり優しく振舞うのではなくいつもと違ったことをしてみる、そんな日常なのに日常と違うこと、しかしそれも日常の範囲内の出来事。そんな瞬間を書いただけの作品だろうに、羨ましさや懐かしさ、温かさがあって気持ちのいい作品でした。こういうものも書けるのか、舞城王太郎。今後も続けて読み続けたい作家です。