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評価:
倉知 淳
東京創元社
¥ 777
(1998-01)
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日本の名探偵と言えば?という問いに対してしばしば名前があがってくる猫丸先輩。未読の私には、どんな先輩なんだ、学生なのか社会人なのか、そもそも誰の先輩なんだ、みたいな疑問符だらけでドキドキして読みましたが、学生時代の先輩後輩というスタイルらしい。30過ぎで職業不明。予想外の展開です。もっと若々しい先輩を想像していた。ただ、特にがっかりというわけではなく、怪しげなアングラ劇から町内会の三味線大会まで興味のあることは何でも触手をのばす変人。分類すると御手洗もしくはホームズタイプらしい。いい設定です。大好きです、そういう人。
周囲に高い建物がないのに明らかに20m以上の高さから落下した遺体の謎
「空中散歩者の最期」、明日もういちど会って魔法を見せてくれると約束したおじちゃんの死に向かう少女の
「約束」、海で遭難した二人の青年が魔物に襲われる昔話に挑む
「海に棲む河童」、観客の前で役者が服毒死する
「一六三人の目撃者」、寄生虫館の3階で1階に居るはずの人間が殺害される
「寄生虫館の殺人」、ドアを開くと生首が呪いの言葉を吐いた
「生首幽霊」、日曜に会う彼は連続通り魔の犯人かもしれない
「日曜の夜は出たくない」の7編からなる連作短編集。7編は多い。
前回読んだ「星降り山荘の殺人」は、正直キビシイ出来だったと思うのです。ミステリ的にどうとかではなく面白くなかった。しかし、今回は良い。全体の印象としてはパワーやエネルギーを省いた御手洗シリーズ、いやむしろ北村薫系の静かなミステリでした。掲げられる謎もそれぞれ面白いし。
特に気に入ったのが「約束」の少女とおじちゃん。謎よりも幼い子供の目線がとてもうまく気に入りました。「ミステリーランド」が楽しみになるくらい子供がうまいと思いました。おじちゃんと少女の大切な時間も切ないですし。「海に棲む河童」は昔話の謎を猫丸先輩が解くというもの。非常に面白い謎解きで、これはだいたい予想がついたとしてもつかなくてもいい。このテの昔話や伝承を使った系の話はたまらなく好きなんです。猫丸先輩と一緒に漂流するまでの青年二人のまぬけなやり取りも好ましい。
そして「日曜の夜は出たくない」は、たまというバンドの歌にそんなフレーズがあったなあと思いながら楽しみにしていましたが、歌とは全く違う話でした。北村薫の「空飛ぶ馬」のような読後感。ただオチは容易に想像できますが、がっかり感はほとんどないです。素敵な話だからでしょう。思いつめた主人公が「先輩に相談するしかない」「先輩とは恋仲みたいなものだった」みたいな表現があって、猫丸先輩の元カノ!?と急にヴォルテージが上がりましたが、相談相手は八木沢くんでした。著者はトリックでも何でもない感じで書いたのかもしれないけれど、こんなところでひっかかるような私ではミステリファンとは言えまい。
作品の最後に二編、おまけのような小品がありましたが、解説っぽい内容だったので、実のところあまり読みたくなかったです。謎解きの解説とかあまり関心ないですし。小説については読んだ人間がそれぞれ勝手に感じればいいと思うので、普段は解説もあとがきも読みません。ただひとつだけ、各短編が脇役リレー形式になっているとは気づかなかったので、そう言われたら気になるじゃないですか。はは。何人かは共通の人がいるなあとは思っていたけれど、最初から読み直しですよ。読み直したくなりますよ。ああ。